リバーノート - 都市河川の今

都市河川の連続性確保:魚道・堰改修による魚類移動対策の技術と課題

Tags: 都市河川, 魚道, 生態系保全, 河川構造物, 河川技術

都市河川における河川連続性確保の重要性

都市河川は、古くから治水、利水、そして近現代においては都市景観やレクリエーション空間としての多機能性が追求されてきました。一方で、これらの機能を満たすために設置された堰や落差工といった河川構造物は、多くの区間で河川を物理的に分断し、魚類をはじめとする水生生物の移動を阻害する要因となっています。

河川の分断は、生物の生息・生育・繁殖域を縮小・孤立させ、個体群の維持を困難にします。これは、単に特定の魚種が減少するという問題に留まらず、河川生態系全体の健全性を損なうことにつながります。近年、河川生態系の保全・再生に対する関心の高まりとともに、「河川連続性の確保」は、持続可能な都市河川管理における重要な課題として認識されています。特に、多自然川づくりや河川改修における環境配慮が標準化される中で、既設構造物がもたらす生態系への影響を軽減するための技術的なアプローチが求められています。

本稿では、都市河川における魚類の遡上・降下対策に焦点を当て、既存構造物に対する魚道設置や改修の技術、設計・維持管理における課題、そして河川連続性確保に向けた総合的な取り組みについて解説します。

河川構造物が魚類移動に与える影響

都市河川に設置される堰や落差工は、主に取水、水位維持、砂防、景観といった目的で建設されます。これらの構造物は、河川の縦断方向の連続性を物理的に遮断します。

これらの影響は、魚類の種、体サイズ、遊泳能力、産卵期や成長段階によって異なります。例えば、アユやサクラマス、ウナギなどの回遊魚は、一生のうちで河川を大きく移動するため、構造物の影響を強く受けます。

既存構造物に対する魚道設置・改修技術

既存の堰や落差工に対して、魚類の移動を可能にするための主要な対策は、魚道の設置や既存構造物自体の改修です。魚道には様々な種類があり、対象とする魚類の種類、構造物の高さ、河川の地形・地質、水量、利用目的などを考慮して選定・設計されます。

代表的な魚道の種類と特徴は以下の通りです。

既存構造物に魚道を設置・改修する際には、以下の点に留意が必要です。

魚道の設計においては、対象魚種の遊泳能力や行動特性に基づき、流速、水深、隔壁間隔、勾配といったパラメータを適切に設定することが、機能確保の鍵となります。河川管理施設の技術基準などにおいて、魚道設計に関する一般的な考え方や標準的な勾配などが示されています。

魚類の降下対策技術

河川連続性の確保は、魚類の「遡上(さかのぼり)」だけでなく、「降下(くだり)」についても考慮する必要があります。産卵後に海に戻る親魚や、成長に伴って下流へ移動する稚魚などが、安全に降下できる経路の確保が重要です。

降下を阻害する主な要因としては、取水施設(ポンプ場や頭首工の取水口)や、堰の越流部などがあります。

降下対策としては、以下のような技術が用いられます。

特に、農業用水や工業用水などの取水施設が多い都市河川では、取水と降下対策の両立が大きな課題となります。

連続性確保に向けた総合的アプローチと課題

河川連続性の確保は、単に魚道を設置すれば解決する問題ではありません。より効果的かつ持続可能な取り組みのためには、以下のような総合的なアプローチと、それに伴う課題が存在します。

まとめと今後の展望

都市河川における河川構造物による分断は、水生生物の移動を阻害し、生態系健全性にとって重要な課題です。魚道設置や既存構造物の改修は、この課題に対する主要な技術的対策であり、様々な手法が開発・適用されています。また、魚類の降下対策や、構造物自体の撤去・改修といった抜本的な対策も検討されています。

しかし、これらの取り組みは、技術的な制約、維持管理の課題、コスト、そして利水や治水といった他の河川機能との調整など、多くの課題に直面しています。

今後の都市河川管理においては、河川連続性確保を、単一の技術適用に留まらず、流域全体の生態系ネットワーク回復という長期的な視点に立ち、技術、維持管理、法制度、関係者間の合意形成といった多角的なアプローチによって推進していくことが求められます。生態系モニタリングに基づく効果検証を通じて、より効果的な対策手法の確立と普及が進むことが期待されます。